私の一度だけのラブレター

「あなたに手紙をこうして書くのは、これが最初で最後です。
心の内を伝えるには、こうするしかありませんでした。
どうか、この手紙を読んだら、燃やしてください」その封筒の中には、センスのいい小さなマッチが同封されていました。

そのときの私のショックといったら。
なぜなら、かつて私も、同じことをしたからです。
彼の奥さんへの良心の呵責でいっぱいだったあの頃、彼の奥さんを苦しめないよう、彼との関係が発覚するのを恐れていた当時の、

私の一度だけのラブレターと同じものだったのです。

自分で言うのもなんですが、不倫の恋をしていた私は客観的に見て、自尊心が強い女でした。
納得してえらんだ恋の道だから、誰をも恨むまい。
奥さんとひとりの男性を奪い合うのは負け戦も同様、自分が惨めになるだけ。
そういう思いがつねに念頭にあり、やがて静かに身を引いたのでした。

ですから、同じような手紙を書いたその女性も、きっとかつての私のように静かに去っていくだろう。
そう信じて、夫たちの関係を知った後、しばらく後、夫にそれを伝え、その後どうするかは彼に下駄を預けました。

彼らを静観していました。

結果は私が信じていた通りでした。
きっと夫は、その女性に私が知ったことを伝えたのでしょう。
私が夫に話をしてからニカ月ほど後に、夫はひとこと「別れたよ」と言いました。
今、考えてみれば、これほど誰もが深く揚をつけ合うようなこともなく、きれいに別れを迎えることができたのも稀なことかもしれません。

ひとこと言うのをお許しいただければ、それは私自身が過去に不倫の恋を経験したことが幸いしたのだと思います。
夫を過去の恋人と、そして彼女を自分と重ねて見ることで、少なくとも彼等の心理を理解できた。
思いやりを持てた。
だから騒ぎを起こさず見守ることができたのではないか、と思います。
そうでなければ、今もなお泥沼の日々を送っていたかもしれません。

不倫の恋をした感傷は人それぞれでしょう。
でも、私はこの一件のときほど不倫の恋によって知った心の痛みが、こんなにも人の気持ちを思いやるのに役に立つとは思いませんでした。

参考記事: